奈良県宇陀郡御杖村のお住まいで、主屋に接する下屋(げや)の瓦屋根を葺き直した事例をご紹介します。屋根の一部が垂れ下がり、雨漏りの応急処置としてシートが掛けられていた状態から、瓦をいったんすべてめくって下地を新しくし、既存の瓦を選り分けて葺き戻しました。
「瓦はまだ使えそうなのに、屋根が垂れてきた」。古い瓦屋根でよくあるこのご相談は、瓦ではなく瓦の下にある葺き土・野地板・垂木の傷みが原因であることがほとんどです。今回の工事は、その下地をどう直したのかを工程ごとに写真でたどれる内容になっています。同じようなお悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。
工事概要
- 施工エリア:奈良県宇陀郡御杖村
- 建物:木造住宅(土壁の主屋に接する平屋の下屋部分)
- 工事種別:瓦屋根の葺き直し(下地やり替え)
- 既存屋根:和瓦(土葺き/葺き土・杉皮の下地)
- 使用材料:既存瓦を選別して再利用(鬼瓦・冠瓦・のし瓦含む)
- 野地:構造用合板 t12mm 張り
- 下葺き材:デュポン タイベック ルーフライナー
- 谷板金:ガルバリウム鋼板 t0.35 に交換
- 施工面積:約17㎡(棟 約4m)
- 主な施工内容:既存瓦めくり・葺き土/野地板撤去処分、垂木の添え木補強と不陸調整、野地合板張り、下葺き材新設、瓦桟新設、瓦葺き直し(全数釘留め)、棟の解体・南蛮漆喰による積み直し、谷板金交換、壁際のし瓦の一部解体復旧
- 完工:2026年10月
ご相談のきっかけ
「下屋の屋根が下がってきて、天井から雨が漏りそう」とのご相談でした。お伺いすると、主屋の土壁にくっつくように建つ平屋部分の屋根が、軒先に向かって目に見えて垂れ下がっていました。内部への雨漏りを止めるため、屋根全体には応急処置のシートが掛けられています。
御杖村は奈良県の東端、三重県との県境に近い山あいの村です。木々に囲まれた敷地は日当たりや風通しが限られ、屋根が一度湿ると乾きにくい環境でもあります。こうした場所の古い瓦屋根は、表面の瓦よりも先に、その下の下地が傷んでいくケースが少なくありません。
現地調査の結果、瓦そのものは割れや欠けが少なく、まだ十分に使える状態でした。一方で、屋根の垂れ下がりは下地の腐朽が原因と考えられたため、「瓦は活かし、下地はすべて新しくする」葺き直し工事をご提案しました。
施工前の状態

軒先側が下がり、屋根面が波打っているのが分かります。シートで雨はしのげても、下地の腐朽は止まりません。垂れ下がりが進むと、瓦のずれや落下、さらには構造材の損傷につながるおそれがあります。

瓦をめくってみると、瓦を据えるための葺き土(ふきつち)と、その下に敷かれた杉皮が雨水を含み、ぼろぼろに崩れていました。昔ながらの「土葺き(つちぶき)」と呼ばれる工法で、土の粘りで瓦を固定し、杉皮が下葺き材の役割を担っています。土と杉皮は長年使われてきた理にかなった材料ですが、一度雨が回ると水を抱え込み、重くなったうえに下地の木材を傷めてしまいます。
工事の流れ
1. 既存瓦のめくり・葺き土の撤去

まずは既存の瓦を一枚ずつ丁寧にめくります。この土は屋根にとって大きな重量になっており、撤去するだけでも建物の負担は大きく減ります。
2. 野地板の撤去と垂木の補強

野地板を剥がし、垂木(たるき)と母屋(もや)の骨組みだけの状態にしました。屋根の形を支える骨組みが見えることで、どこが下がっていたのか、どの部材が傷んでいるのかが正確に確認できます。

既存の垂木は一部に傷みやたわみが見られたため、既存の垂木に新しい木材を添えて補強(添え木)し、あわせて高さのばらつき(不陸)を調整しました。屋根の垂れ下がりを根本から直すには、この工程が欠かせません。ここで面をまっすぐに整えておくことで、仕上がりの瓦のラインも美しく通ります。

軒裏側から見ると、黒ずんだ既存の材の横に、明るい色の新しい木材が沿っているのが分かります。既存の骨組みを活かしながら必要な強度を足すことで、建物全体に大がかりな手を入れずに屋根をよみがえらせることができます。
3. 構造用合板の野地張り

補強した垂木の上に、厚さ12mmの構造用合板を全面に張りました。合板は一枚一枚が大きく、面で屋根を支えるため、昔の小幅な野地板に比べて屋根面の剛性が高まり、釘の保持力も安定します。

合板を垂木に効かせる大切な下準備です。

合板を張り終えた下屋を外から見ると、施工前に垂れ下がっていた屋根面がまっすぐに直っているのがよく分かります。
4. 下葺き材(ルーフィング)の敷設

【施工中】下葺き材(タイベック ルーフライナー)を敷き込み、上端は土のうで仮養生
野地合板の上に、下葺き材のデュポン タイベック ルーフライナーを敷き込みました。下葺き材は、瓦の隙間から入り込んだ雨水を受け止めて軒先へ流す、いわば屋根の「二次防水」です。瓦屋根は構造上、強い雨風のときに多少の雨水が瓦の下に入ることを前提にしているため、この層の品質が雨漏りを防ぐ要になります。作業途中で日をまたぐ部分は、ブルーシートと土のうでしっかり仮養生しています。

この屋根でとくに注意が必要なのは、主屋の土壁と下屋の屋根がぶつかる「壁際」です。壁を伝って流れ落ちる雨水が集中しやすく、施工前の雨漏りもこの付近から広がっていたと考えられます。下葺き材は壁際でしっかりと立ち上げ、屋根と壁の境目に水が入り込まないようにしました。

主屋の瓦屋根と下屋の屋根が取り合う部分(谷部)にも、下葺き材を十分に差し込んで重ねています。下葺き材は「上から下へ、水上側が上に重なる」ように張るのが鉄則で、取り合い部ではこの重ね方の丁寧さが防水性能を大きく左右します。
5. 瓦桟の取り付け

墨出しした位置に合わせ、下葺き材の上から瓦桟を流しました。瓦の裏にある突起を瓦桟に引っ掛け、さらに釘で留めることで、土に頼らず瓦をしっかり固定できます。葺き土を使わない「引っ掛け桟葺き」に変えることで、屋根の重量が軽くなり、建物への負担も地震時の揺れも抑えられます。
6. 谷板金の交換

主屋の屋根と下屋の屋根が交わる谷部には、新しいガルバリウム鋼板(板厚0.35mm)の谷板金を取り付けました。谷部は二つの屋根面から雨水が集まる「屋根の排水路」で、雨漏りの起きやすい箇所の代表です。板金の両脇にはスポンジ状の止水材を沿わせ、瓦との隙間から雨水や吹き込みが入りにくいように納めています。

谷板金は主屋の壁際から軒先まで一続きに通し、集まった雨水がスムーズに流れ落ちるようにしました。板金の加工・取り付けは、板金職人を本業とする当社がもっとも得意とする工程です。
7. 既存瓦の葺き直し

いよいよ瓦を葺き戻していきます。めくった瓦は一枚ずつ状態を確認して選別し、割れや欠けのないものを再利用しました。軒先から棟に向かって、瓦桟に引っ掛けながら全数を釘で留めていきます。土の粘りで固定していた施工前と比べ、強風や地震でもずれにくい屋根になります。


谷沿いの瓦は、谷の角度に合わせて一枚ずつカットして納めます。切り口が揃っていないと雨水の流れが乱れ、ゴミや落ち葉も溜まりやすくなります。見た目の美しさだけでなく、水はけのためにも手間を惜しまない部分です。

作業は天候を見ながら進め、その日に仕上がらなかった部分は必ずシートで養生してから引き上げます。外から見ると、主屋の屋根と同じ瓦が下屋にも戻り、建物全体のまとまりが取り戻されていくのが分かります。
8. 壁際ののし瓦の積み直し

主屋の土壁と屋根の境目には、のし瓦を積んで雨仕舞いをします。既存ののし瓦の一部を解体し、南蛮漆喰(なんばんしっくい)で固定しながら積み直しました。南蛮漆喰は、従来の葺き土に比べて雨に強く、崩れにくい瓦用の漆喰です。

積み直しを終えた壁際です。立ち上げた下葺き材、谷板金、のし瓦が重なり合うことで、壁を伝って落ちてくる雨水を何重にも受け流す構造になっています。
9. 棟の解体・積み直し

屋根の頂部にある棟(むね)も、既存のものをいったん解体し、南蛮漆喰で積み直しました。棟は屋根の中で最も風雨にさらされる部分で、内部の土が流れ出すと棟のゆがみや雨漏りの原因になります。

水糸を張って通りを確認しながら、のし瓦を一段ずつ積み上げていきます。棟の線がまっすぐ通っているかどうかで、屋根全体の印象は大きく変わります。

鬼瓦との取り合いは、雨水が入りやすい要注意ポイントです。冠瓦の下に板金を差し込み、南蛮漆喰で隙間なく埋めて、水の通り道を作らないように納めています。


最後に冠瓦を据え、緊結線で一本ずつ固定して棟の完成です。鬼瓦も既存のものをそのまま活かしました。長年この家を見守ってきた鬼瓦が、新しい下地の上で引き続き屋根を飾ります。

施工後


雨漏りの起点になっていた谷部と壁際は、谷板金・のし瓦・南蛮漆喰でしっかりと雨仕舞いしました。瓦の切り口が谷板金の上にきれいに揃い、雨水がまっすぐ軒先へ流れる形になっています。


施工前に垂れ下がっていた軒先は、瓦のラインが一直線に通るようになりました。下地からつくり直したことで、見た目だけでなく、屋根としての耐久性も大きく向上しています。


既存の瓦を再利用したため、葺き直した下屋の屋根は主屋の屋根と色味や風合いが揃い、新しく張り替えたような違和感がありません。古い家並みの趣を残したまま、屋根の中身だけを新しくできるのが葺き直し工事の大きな魅力です。
瓦の葺き直し工事のメリット
瓦を活かして、下地だけを新しくできる
粘土瓦は焼き物のため、瓦そのものは非常に長持ちする屋根材です。一方で、瓦の下の葺き土・野地板・下葺き材は年月とともに劣化します。葺き直しは「まだ使える瓦はそのまま、傷んだ中身だけを交換する」工事で、瓦をすべて新しくする葺き替えに比べて材料費や処分費を抑えられます。
主屋や周囲の屋根と見た目が揃う
今回のように主屋と下屋がつながっている建物では、一部だけ新しい瓦や別の屋根材にすると、色や形の違いが目立ってしまいます。既存の瓦を戻せば、建物全体の統一感をそのまま保てます。
土葺きから引っ掛け桟葺きへ。軽く、ずれにくい屋根に
葺き土をなくし、合板・下葺き材・瓦桟の下地に変えることで、屋根の重量が軽くなります。瓦を一枚ずつ釘で留めるため、強風や地震でのずれ・落下のリスクも抑えられます。
注意点:再利用瓦の場合は保証期間が短くなります
既存の瓦は経年による劣化を抱えているため、当社では葺き直し工事の保証期間を2年としています。また、瓦の枚数が不足する場合は近い形状・色の瓦で補いますが、まったく同じ瓦が手に入らないこともあります。こうした点も、事前に包み隠さずご説明したうえで工事をお選びいただいています。
よくあるご質問
Q. 屋根が垂れ下がってきたら、建て替えや大規模な工事が必要ですか?
A. 垂れ下がりの原因が、今回のように野地板や葺き土などの下地の傷みであれば、骨組みを補強して下地をやり替えることで直せる場合が多くあります。柱や梁など構造の主要部分まで傷んでいるかどうかは、瓦をめくって初めて分かることもあるため、まずは現地で状態を確認させてください。
Q. 葺き直しと葺き替えはどう違いますか?
A. 葺き直しは既存の瓦を再利用し、下地だけを新しくする工事です。葺き替えは瓦も含めてすべて新しくする工事で、軽い金属屋根などに変えることもできます。瓦の状態、建物の重さ、ご予算、今後何年住まわれるかなどによって最適な方法は変わりますので、それぞれのメリット・デメリットをご説明したうえでご提案します。
Q. 土壁の家でも屋根工事はできますか?
A. もちろん可能です。土壁は水に弱いため、壁際の雨仕舞いはとくに丁寧に施工します。今回も下葺き材の立ち上げ、谷板金、のし瓦の積み直しを組み合わせて、壁を伝う雨水が建物内に入らないように納めました。
Q. 工事中、雨が降ったらどうなりますか?
A. 瓦をめくった部分は、その日の作業終わりに必ずシートと土のうで養生してから引き上げます。雨の日は無理に作業を進めず、天候を見ながら工程を調整しますので、ご安心ください。
奈良県宇陀郡御杖村の屋根修理は「屋根修理の匠ひおき」へ
屋根修理の匠ひおきは、創業72年、親子三代続く板金・屋根工事の専門店です。営業担当や下請けを挟まず、現場を知る職人が自ら調査・お見積り・施工まで責任を持って行います。
「屋根が下がってきた気がする」「雨漏りのシートを掛けたままになっている」「瓦を活かして直せるか知りたい」など、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。奈良県(御杖村・宇陀市・曽爾村ほか)をはじめ、三重・大阪・京都・和歌山・滋賀・兵庫まで対応しております。屋根の無料点検も承っております。


