入母屋(いりもや)は、お寺や古い日本家屋によく見られる屋根の形です。屋根の上の方に三角形の壁が見え、その下から屋根が四方へ広がる、どっしりと落ち着きのある姿が特徴です。
一方で、屋根の面と面が山形につながる棟(むね)が多く、屋根と壁が接する部分も入り組んでいます。「天井にシミが出てきた」「強い雨のときだけ雨漏りする」といった症状があると、どこに原因があるのか分からず、不安になる方もいるのではないでしょうか。
修理や、屋根材を新しくする「葺き替え(ふきかえ)」を考える際には、入母屋らしい外観を残せるのか、瓦から金属屋根へ替えられるのかも、気になるところだと思います。補修や葺き替えの方法は、瓦だけを直せるのか、防水シート(ルーフィング)や下地まで直す必要があるのかによって変わります。
この記事では、入母屋屋根の形や切妻・寄棟との違い、雨漏りに注意が必要な場所、葺き替えるときの注意点を、昭和29年の創業から奈良・三重を中心に屋根と雨どいの工事を続けてきた板金職人の目線でお伝えします。
入母屋(いりもや)屋根とは
下の写真で赤く囲んだ部分が、入母屋屋根です。上の方に三角形の壁があり、その下に屋根が回り込んでいます。
入母屋屋根は、切妻(きりづま)屋根と寄棟(よせむね)屋根の特徴を組み合わせた形です。次の図で、三つの屋根を比べてみましょう。
切妻屋根・寄棟屋根との違い
図の一番上の切妻屋根は、本を開いて伏せたような形です。本の背にあたる高い部分から、左右に屋根の面が下がり、雨水も左右へ流れます。三角形の壁を「妻壁(つまかべ)」、その壁がある側を「妻(つま)側」といいます。
図の真ん中の寄棟屋根は、家の前・後ろ・左右の四方へ屋根の面が下がる形です。雨水も、それぞれの面を伝って四方へ流れます。切妻屋根で見えた三角形の妻壁がない点が、見分ける手がかりです。
図の一番下の入母屋屋根は、上の方に切妻屋根のような三角形の妻壁があり、その下には寄棟屋根のように四方へ広がる屋根があります。この組み合わせから、「上の部分は切妻、下の部分は寄棟」と説明されることがあります。
入母屋屋根で雨漏りに注意する箇所
入母屋の雨漏りを調べるときは、棟や壁際など、部材のつなぎ目に注目します。建築では、部材どうしが接する部分を「取り合い」といい、雨水を建物の中へ入れず外へ流す仕組みや工夫を「雨仕舞(あまじまい)」と呼びます。
ただし、雨漏りの原因は表面に見える瓦だけとは限りません。瓦の下に敷く防水シートは、すき間から入った雨水を屋根の先端へ流す役割を担っています。このシートや、屋根材を支える下地の板である野地板(のじいた)の傷みが関わる場合もあるため、表面の補修だけで直るかどうかは調査で判断します。
ここからは、5つの場所について、屋根のどこにあり、どのような傷みが雨漏りに関わるのかを説明します。
1. 屋根の山形のつなぎ目(棟)
「棟」とは、屋根の面どうしが山形に合わさる部分のことを指します。入母屋には、屋根の頂上の大棟(おおむね)、妻側の縁に沿って下る降り棟(くだりむね)、四隅へ向かう隅棟(すみむね)があります。
従来の瓦屋根では、棟に積んだ瓦の内部に土を使い、その土が露出する部分を漆喰(しっくい)で覆っているものがあります。漆喰が剥がれて土が流れると、瓦のずれや雨水の浸入につながることがあります。
漆喰の補修だけで済むか、棟をいったん解体して積み直す必要があるかは、瓦のずれや固定の状態も含めて判断します。
金属屋根やスレート屋根では、棟を覆う金属の部材「棟板金(むねばんきん)」も確認箇所です。固定する釘やビスがゆるむと、板金が浮き、すき間から雨水が入ったり、強風でめくれたりすることがあります。棟の調査では、ご自宅の屋根材に合わせて、瓦や漆喰、棟板金の状態を確かめます。
2. 妻壁の下で棟がつながる角
三角形の妻壁の、左右の下の角にあたる部分です。上から下りてきた降り棟と、四隅へ向かう隅棟がここでつながり、鬼瓦を置いている屋根もあります。瓦や漆喰、板金などの継ぎ目にすき間ができると、雨水の入り口になることがあります。棟の直線部分に加えて、この角の接続部分も調査の対象です。
3. 三角形の妻壁と屋根が接する部分
三角形の妻壁のすぐ下には、屋根の面が接しています。ここでは、壁を伝う雨水を屋根の上へ流すために、「水切り」や「雨押え(あまおさえ)」と呼ばれる部材で壁際を覆っています。
雨押えが浮いたり、すき間をふさぐシーリング材にひびや剥がれが生じたりすると、壁際から雨水が入り込むことがあります。屋根材に傷みが見えなくても、この部分の不具合が関わっていないかを確認します。
4. 妻側の屋根の縁(破風板まわり)
妻側の屋根の斜めの縁を覆う板が、破風板(はふいた)です。木製の場合は、塗装の剥がれや木の割れが傷みの手がかりになります。ただし、見た目の傷みだけで雨漏りの原因とは判断できないため、屋根材や妻壁と接する部分のすき間も調べます。
破風板は、傷みの程度に応じて、塗り直し、部材の補修・交換、金属板で覆う方法などで保護します。
5. 屋根の先端(軒先)と雨どい
屋根の先端を、軒先(のきさき)といいます。軒先に付く雨どいは、屋根から流れ落ちる雨水を受け止めます。入母屋は屋根が四方へ広がるため、雨どいも家のまわりをひととおり確認します。
落ち葉や土ぼこりで詰まったり、継ぎ目が外れたり、雨どいを支える金具がゆるんで傾きが変わったりすると、雨水があふれることがあります。
あふれた水が外壁や軒の裏側にかかり、壁際などの防水部分にも不具合があると、雨漏りにつながる場合があります。雨どいの清掃・補修だけでよいか、軒先の瓦や板金にも傷みがないかをあわせてチェックします。
屋根のつながり方によってできる「谷」にも注意
二つの屋根面が内側に折れてつながる、くぼんだ部分を「谷」といいます。雨水が集まるため、金属の部材「谷板金(たにばんきん)」で雨水の通り道をつくります。
増築やほかの屋根との接続がない、単純な長方形の入母屋には、この谷はありません。妻壁と下の屋根の接続部分は谷とは別で、雨押えなどで保護します。
ただし、L字形・T字形の家や、下屋(げや)・増築部分の屋根とつながる家では、接続の仕方によって谷ができます。下屋は、主な屋根より低い位置に付く屋根のことです。谷がある場合は、そこに付く谷板金の状態も調べます。
入母屋屋根のメンテナンス方法
入母屋屋根の補修方法は、傷んでいる部材や、傷みがどこまで及んでいるかによって変わります。瓦屋根で行う主な補修について、工事で何をするのか、どの範囲まで対応できるのかを紹介します。
漆喰を詰め直す
棟の瓦を残して補修できる場合には、傷んだ漆喰を取り除き、必要な部分に新しい漆喰を詰め直します。どこまで補修するかは、漆喰の表面だけでなく、棟の内部や瓦の固定の状態も調べて決めます。
棟の瓦にずれがある場合や内部まで傷んでいる場合には、漆喰の詰め直しだけでなく、瓦の調整や棟の積み直しが必要かを判断します。
棟を積み直す
棟の瓦をいったん取り外し、内側の状態を確認してから組み直す補修です。傷んだ部分を直し、瓦の並びだけでなく、固定方法も含めて施工します。取り外した瓦を再利用するか、新しい瓦に替えるかは、瓦の割れや傷みなどを見て判断します。
割れた瓦を交換し、ずれを直す
傷みが一部に限られていれば、既存の屋根に合う瓦を用意し、割れた瓦だけを交換できる場合があります。ずれた瓦も、位置を戻す作業とあわせて、留め付けの状態を確かめます。
瓦の下の防水シートや下地にも傷みが疑われる場合は、瓦を取り外すなどして内側の状態を調べ、必要に応じて補修します。瓦だけの交換で済むか、内側まで直すかは、傷みの範囲によって変わります。
壁際の金属部材や破風板を補修する
壁際の雨押えなどは、浮いた部分を固定し直したり、傷んだ部材を交換したりします。継ぎ目のシーリング材だけで対応できるのか、金属部材やその内側の下地まで直すのかを、調査の結果に合わせて判断します。
破風板は、内部の木材などの状態を調べてから、補修・交換や塗装、金属板で覆う方法を選びます。金属板で覆う場合は、破風板の形に合わせて板金を加工し、表面を保護します。
雨漏りや新しいシミが出た場合や、台風・地震のあとに屋根のずれなどが見られる場合は、定期点検とは別に、異常がある部分を調べます。
入母屋屋根をリフォームするときの注意点
瓦や下地の傷みが広い範囲に及ぶ場合や、屋根を軽くする場合には、葺き替えを検討することになります。葺き替えでは、新しい屋根材に替える工事とあわせて、下地や壁際をどこまで直すかも調査で決めていきます。
入母屋は、棟や屋根の端に使う部材や加工の手間が増えるため、同じ屋根面積・同じ屋根材でも、単純な形の屋根より費用が高くなることがあります。
ここからは、補修範囲や屋根材の選び方をはじめ、形を残して金属屋根へ替える際の板金加工・雨仕舞、下地や防水シートの工事など、入母屋屋根のリフォームで注意するポイントを詳しく解説します。
補修する範囲と、葺き替える屋根材を決める
傷みが瓦の一部や棟に限られる場合は、部分補修で対応できることがあります。防水シートや野地板まで傷んでいる場合は、瓦を取り外して下地から直す必要があるかを調べます。
屋根材を新しくする場合は、新しい瓦へ替える方法と、ガルバリウム鋼板などの金属屋根へ替える方法があります。使う材料は、仕上がりの見た目や費用、屋根の重さに加え、屋根の傾きなどの施工条件も踏まえて選びます。
屋根を軽くする工事では、瓦だけでなく、瓦の下に葺き土(ふきつち)を敷いた「土葺き」の屋根かどうかも調べます。土葺きでは、その土も屋根の重さに加わるためです。
いまの瓦の状態がよければ、下地を直したあとに瓦を戻して再利用できる場合もあります。この方法は「葺き直し」と呼ばれます。
入母屋の形を残して金属屋根へ葺き替える
入母屋屋根は、形を残したまま瓦からガルバリウム鋼板などの金属屋根へ葺き替えることもできます。近年、弊社でもよくご相談をいただく屋根リフォームの方法です。三角形の妻壁や四方へ広がる屋根の輪郭を生かし、瓦とは異なるすっきりとした外観に仕上げます。
屋根材は、屋根の傾き(勾配)などの条件に合う製品を選び、屋根面の形に合わせて切り合わせながら葺いていきます。
入母屋の棟や妻壁まわりを屋根の形に合わせて仕上げるには、板金職人の加工技術が重要です。金属板を切ったり折り曲げたりする「板金加工」によって、屋根と屋根、屋根と壁のつなぎ目を保護します。
屋根ごとの寸法や角度に合わせて加工する
棟や壁際は、屋根の傾きや部材が接する角度、必要な幅が場所ごとに異なります。板金職人は現場で寸法を測り、使う屋根材に合った部材を選んだうえで、端部や角を必要な形に加工します。
例えば、複数の棟が集まる部分では、棟を覆う板金どうしがつながるように、切り合わせる角度や折り曲げる位置を決めます。妻壁の下では、壁と屋根の接し方に合わせて雨押えを加工・取り付けます。破風板を金属板で覆う場合も、斜めの輪郭に沿って仕上げます。
雨水の流れを考えてつなぎ目を納める
板金を取り付けて接続部分を仕上げることを、現場では「納める」といいます。雨仕舞では、屋根や壁を伝ってきた雨水が、つなぎ目の内側へ回り込まず、屋根面から軒先へ流れるように部材を組み合わせます。
部材を重ねる向きや重なりの長さ、端部を折り上げる位置などを、屋根材の施工基準と現場の形状に合わせて決めます。シーリング材で継ぎ目を保護する部分でも、板金自体の形や重ね方を整え、雨水の通り道を確保することが大切です。
当社は金属屋根や雨押え、水切りなどの板金工事を専門としており、屋根ごとの形に合わせた加工と雨仕舞を行います。
防水シートと下地の工事範囲を確かめる
屋根材を取り外すと、普段は見えない野地板の状態を調べられます。傷んだ部分を補修・交換し、必要に応じて上から合板を張って下地を整えます。その後、新しい防水シートと屋根材を施工します。
瓦の入母屋屋根にカバー工法はできるか
カバー工法は、いまある屋根材を残し、その上に新しい屋根材を重ねる工事です。既存の屋根に重さを加えるため、屋根を軽くする方法にはなりません。
一般的な金属屋根材のカバー工法では、瓦の上にそのまま重ねることはできません。これは入母屋に限らず、切妻や寄棟など、屋根の形にかかわらず瓦屋根に共通します。瓦には大きな凹凸があり、そのままでは金属屋根材を取り付ける下地にできないためです。
瓦屋根を金属屋根へ替える場合は、瓦を取り外して下地の状態を調べ、必要な補修を行ってから新しい屋根材を施工するのが基本です。
化粧スレート(カラーベストなど)や金属屋根では、製品の施工基準に合うかを確認します。雨漏りが続いて野地板などが傷んでいる場合は、上から屋根材を重ねるだけでは直せないため、既存の屋根材を取り外して下地を補修する必要があるかを調べます。
屋根の形を変えることはできるか
入母屋を寄棟や切妻へ変える場合は、屋根の骨組みの変更が必要です。屋根材だけを替える工事より範囲が広がるため、骨組みの状態や、建物全体とのつながりを調べて計画します。工事の費用や工期も、形を変える範囲や構造によって変わります。
入母屋屋根についてよくあるご質問
Q. 雨漏りしていたら、屋根全体の葺き替えが必要ですか
雨漏りしていても、部分補修で直せる場合があります。屋根全体を葺き替える必要があるかは、雨水が入る原因と、防水シートや下地がどこまで傷んでいるかを調べて判断します。
Q. 補修や葺き替えの費用は、何によって変わりますか
費用は、屋根の広さや使う材料、棟や壁際の工事量、下地の補修範囲などによって変わります。
Q. 雨漏りの原因は、自分でも見つけられますか
天井のシミや屋根の外観だけでは、雨水が入る場所を特定できないことがあります。ご自身で屋根には上らず、シミが出た場所や、どのような雨のときに漏れたかを記録し、調査を依頼する際に伝えてください。
Q. 漆喰を補修すれば、雨漏りは直りますか
漆喰の傷みが原因なら、補修で直る場合があります。ただし、瓦のずれや防水シートの傷みなどが原因であれば、漆喰を塗り直すだけでは直りません。漆喰だけでなく瓦や下地の状態も調べ、雨水が入る原因に合わせて補修方法を判断します。
Q. 入母屋の家は、地震に弱いのですか
屋根の形だけでは、家の地震に対する強さは判断できません。屋根の重さに加え、壁や骨組み、基礎など、建物全体の状態が関わります。耐震改修の計画では、耐震診断などで建物全体の状態を調べ、屋根の軽量化や補強の必要性を判断します。
Q. 入母屋の形を残して、瓦から金属屋根に替えられますか
形を残したまま、ガルバリウム鋼板などの金属屋根に葺き替えられます。屋根の傾きなどの条件に合う製品を選び、棟や妻壁のまわりは形に合わせて板金加工を施して仕上げます。
Q. 瓦を残したまま、上から金属屋根を重ねられますか
一般的な金属屋根材のカバー工法では、凹凸の大きい瓦の上にそのまま重ねることはできません。この場合は瓦を取り外し、下地の状態を確認してから葺き替えます。
まとめ
入母屋屋根は、いまの形や和風の雰囲気を生かしながら補修・葺き替えができます。ただし、棟や妻壁のまわりには部材のつなぎ目が多いため、雨漏りの調査では、瓦の割れやずれだけでなく、漆喰や板金、防水シート、下地の状態も確かめることが大切です。
補修で直せるのか、葺き替えが必要なのかは、雨水が入る原因と、傷みが及んでいる範囲によって変わります。瓦の一部を交換したり、棟を積み直したりして対応する場合もあれば、屋根材を取り外して下地から直す場合もあります。まだ使える瓦を戻す「葺き直し」も含め、屋根の状態に合わせて工事の方法を選ぶことになります。
瓦から金属屋根へ替える場合も、入母屋の輪郭を残して仕上げることが可能です。その際には、屋根の傾きなどに合う材料を選ぶとともに、棟や壁際の形に合わせた板金加工と、雨水を外へ流す雨仕舞が重要になります。外観を整えることに加え、つなぎ目から雨水が回り込まないように納めることが、私ども板金職人の技術が問われる部分となります。
このように入母屋は複雑な形状であることから、入母屋屋根のリフォームをご検討の際は、施工経験豊富で板金技術ある施工業者に相談するようにしましょう。
入母屋の屋根のこと、まずはご相談ください
「棟の漆喰が剥がれてきた」「雨漏りの原因が分からない」「入母屋のまま金属屋根にできるのか知りたい」といった段階のご相談でも構いません。
屋根の状態を確認したうえで、補修で済むのか、葺き替えを考えたほうがよいのかも含めてお伝えします。
屋根の形に合わせた板金加工を得意とする当社が、奈良・三重を中心に、点検・雨漏り修理・葺き替えのご相談を承ります。現地調査・お見積もりは無料です。
※遠方の場合は出張費をいただく場合がございます。詳しくはお問い合わせください。



