はじめに
このコラムでいつもお伝えしている通り、家を長持ちさせるためには、屋根のメンテナンスがとても重要です。
屋根は、毎日太陽からの紫外線や、雨風、雪といった自然環境から家全体を守っています。しかし、こうした過酷な環境にさらされ続けることで、屋根は少しずつ劣化していきます。屋根が劣化すると、まず見た目が悪くなるだけでなく、最終的には雨漏りや断熱性能の低下といった深刻な問題を引き起こす可能性があります。
そのため、屋根の劣化に気づいた際には、早急に対策を講じる必要があります。しかし、実際に劣化が見られる場合、どのような対策を取るべきか悩む方も多いでしょう。特に、「塗装を施して劣化を防ぐべきか、それともリフォーム修理で屋根を一新すべきか?」という選択は、決して簡単なものではありません。それぞれにメリットとデメリットがあり、選択を誤ると、結果的に余分なコストがかかることもあります。
塗装屋さんに聞けば、「塗装のほうが安いですし、防水性能だけを考えても屋根塗装で十分ですよ!」と言われるかもしれません。
一方で、私たちのような屋根職人に相談すれば、「いずれ屋根リフォームが必要になりますし、長期的なコストを考えれば、既存屋根を金属屋根でカバーしてしまう工法をおすすめします。」とアドバイスされるかもしれません。
本記事では、劣化した屋根に対する「塗装」と「リフォーム修理」という二つの選択肢について、その特徴や利点、欠点を詳しく解説し、最適な選択をするためのポイントをお伝えします。私たちは屋根職人ではありますが、できるだけ主観を排除し、客観的な視点で書いてみます。
既存の屋根の材質は、スレートもしくはガルバリウム(SGL)鋼板などの金属屋根を想定しています。
劣化した屋根の症状と劣化の原因
まず、屋根の劣化がどのように進行するのかを理解することが重要です。劣化した屋根の最も典型的な症状には、以下のようなものがあります。
ひび割れ
屋根材の表面に小さな亀裂が入り、これが広がることで、最終的には雨水が内部に浸入する可能性があります。
色あせ
長年にわたって紫外線にさらされることで、屋根材の色が薄くなったり、ムラができたりします。これは美観の問題だけでなく、屋根材が劣化しているサインでもあります。
塗膜の剥がれ
塗装された屋根材の場合、塗膜が剥がれ始めると防水効果が低下し、屋根材そのものが雨水にさらされやすくなります。
コケや藻の発生
特に日当たりの悪い場所で見られる症状で、これらが繁殖すると屋根材が常に湿気を帯び、劣化が加速することになります。
これらの症状が見られる場合、屋根の劣化は確実に進行しており、何らかの対策が必要です。劣化の主な原因としては、次のような要因が挙げられます。
どんなに高品質な屋根材でも、時間が経つにつれて劣化するのは避けられません。特に、20年以上経過している屋根の場合、劣化が目立ち始めることが多いです。
- 気候条件
強い紫外線や台風、大雨、雪などの気候条件は、屋根材に大きな負担をかけます。例えば、日差しの強い地域では、紫外線による色あせが進みやすく、雪が多い地域では屋根に重い負荷がかかり、ひび割れや損傷が起こりやすくなります。 - 施工不良
屋根の初期施工がきちんと行われていなかった場合、劣化が早まることがあります。たとえば、接続部にシーリングを施しておらず板金仕舞に不良箇所がある場合、隙間から雨水が侵入して雨漏りにつながります。 - メンテナンス不足
定期的な点検やメンテナンスが行われていない場合、劣化が進んでも気づかないことがあります。築後10年経つと一般的にルーフィングは劣化していきます。その傷んだルーフィングに雨水が侵入し、問題が深刻化してから気づくケースも少なくありません。
どんなに高品質な屋根材でも
時間が経つにつれて劣化するのは避けられない・・・
屋根塗装のメリットとデメリット
屋根塗装は、劣化が進行する前に行うことで、屋根の寿命を延ばす効果的な方法の一つです。
塗装を施すことで、屋根材の表面に保護膜が形成され、雨水や紫外線から屋根を守ることができます。また、塗装には断熱効果を期待できる塗料もあり、夏場の室内温度上昇を抑える効果もあります。
メリット
- コストが比較的低い
塗装はカバー工法などの屋根リフォーム修理と比較しても初期費用が低いため、予算が限られている場合でも手軽に行うことができます。 - 施工期間が短い
塗装作業は通常数日で完了するため、普段の日常生活への影響が少ない点も大きなメリットです。 - 美観の改善
屋根の色あせや汚れが目立つ場合、塗装を施すことで屋根の見た目が一新され、家屋全体の外観も向上します。
デメリット
- 効果が一時的
塗装の効果は永久的ではなく、数年ごと(塗料の種類(クオリティ)に応じてサイクルは異なります)に再塗装が必要となります。特に、紫外線や雨風に強くさらされる地域では、効果が短期間で薄れることがあります。 - 構造的な問題を解決できない
塗装は表面的な保護を目的とするものであり、屋根材や下地に構造的な問題がある場合、その解決にはつながりません。例えば、ひび割れや雨漏りが既に発生している場合、塗装だけでは不十分です。
塗装が適しているのは、軽度の劣化が見られる場合や、屋根材そのものがまだ健全である場合です。例えば、築10〜15年程度で、屋根材が比較的良好な状態にあるものの、見た目の改善が求められる場合などに適しています。
屋根リフォーム修理のメリットとデメリット
一方、屋根リフォーム修理は、屋根材を新しく交換したり、下地から修復を行うなど、より大規模な修理を行う方法です。これは、塗装では対処できない根本的な問題に対して行われるもので、屋根の機能を根本的に回復させることができます。
メリット
- 根本的な問題を解決
リフォーム修理は、屋根材や下地の交換を含むため、劣化や損傷が深刻な場合でも、問題を根本的に解決することが可能です。結果的に、次の大規模な修理までの期間が大幅に延びるため、長期的な安心感があります。 - 耐久性の向上
新しい屋根材やルーフィング防水シートを使用することで、屋根の耐久性が飛躍的に向上し、長期間にわたって家をしっかりと守ります。 - 価値の向上
屋根をリフォームすることで、家全体の価値が向上し、将来的に売却を考えている場合にもプラスに査定されることがあります。
デメリット
- 初期費用が高い
リフォーム修理は、塗装と比較して初期費用が高くなります。特に、屋根材の種類や施工内容によっては、費用がさらに増加する可能性があります。ただし、カバー工法を選択することによって、初期費用を大幅に抑えることは可能です。カバー工法なら古い屋根材の撤去にかかるコストを削減することができるため、その分安くなります。どうしても葺き替えしなければならない理由がなければ、カバー工法がおすすめです。 - 施工期間が長い
リフォーム作業は数週間に及ぶことがあり、その間は工事の音や作業員の出入りなど、生活に影響が出る可能性があります。 - 工事の規模
リフォームは大掛かりな工事となるため、事前の計画や準備が必要であり、家族全体での協力が求められる場合もあります。
リフォーム修理が必要なケースとしては、屋根材の割れや欠損が顕著な場合、屋根の下地が損傷している場合、さらには雨漏りが発生している場合などが挙げられます。このような状況では、塗装だけでは対処できないため、リフォーム修理が必要不可欠です。
費用と効果の比較
塗装とリフォーム修理を選択する際には、費用と効果のバランスをしっかりと考慮することが大切です。
初期費用は塗装の方が安価で済みますが、その効果が長期間持続するわけではありません。
一方、リフォーム修理は高額な初期費用が必要ですが、その分長期間にわたって屋根の性能が維持されます。
塗装の初期費用 | リフォーム修理の初期費用 |
一般的には数十万円程度で済むことが多く、短期間での施工が可能です。しかし、再塗装が数年おきに必要であることを考えると、長期的にはコストがかさむ可能性があります。 | 数百万円に達することもありますが、一度修理を行えば、次の大規模なメンテナンスまでの期間が大幅に延びるため、結果的にコストパフォーマンスが良いといえるでしょう。 |
将来のメンテナンス費用も考慮すると、塗装の場合は数年ごとに再塗装が必要ですが、リフォーム修理を行った場合は、次のメンテナンスまでの期間が大幅に延びるため、長期的に見ればリフォーム修理の方がコスト効率が良い場合があります。
特に、カバー工法で初期費用を抑えれば、長期的な費用を計算すると、塗装よりも安く済むことになるのは間違いありません。
一度、「屋根修理の匠ひおき」が提供している「屋根葺き替え費用シミュレーション」で実際にかかる金額を比較してみましょう。
- 1階部分の建坪 25坪
- 建物の階数 二階建て
- 屋根の面数 2面
- 下屋根の有無 なし
- 現在の屋根材 スレート屋根
以上の条件で、屋根塗装する場合は、耐用年数15年で900,900円の見積もり概算となります。10年あたりのコストに換算すると、600,600円です。
一方で、屋根リフォームのカバー工法の場合、25年保証で1,201,359 円の見積もり概算となります。10年あたりのコストに換算すると、480,543円となります。
実際には、カバー工法で新しい金属屋根を被せてしまえば、多くの環境条件下において穴あき25年の保証期間よりも長持ちするでしょう。しかも、断熱材一体型の金属屋根を用いるプランなので、塗装に比べて屋根の性能も格段に上がります。
選択肢の決定基準
では、塗装かリフォーム修理かを選ぶ際には、どのような基準で判断すれば良いのでしょうか?
まずは、屋根の現状を正確に診断することが重要です。屋根の状態が軽度の劣化にとどまっている場合は、塗装で十分な場合もありますが、深刻な劣化が進行している場合には、リフォーム修理が必要です。
予算や将来の計画も重要な判断基準となります。
例えば、今後も長期間その家に住み続ける予定がある場合は、リフォーム修理を行い、屋根全体の耐久性を高めることが望ましいでしょう。逆に、短期間だけ住む予定であれば、低コストで手軽に行える塗装が適している場合もあります。
また、屋根の劣化が進行していると感じたら、早めにプロのアドバイスを受けることが重要です。プロの意見を聞くことで、自分では気づけない問題点を発見し、最適な修理方法を選択することができます。
結論
屋根の劣化が進行している場合、塗装かリフォーム修理かを選ぶことは簡単ではありません。しかし、屋根の現状、予算、将来の計画などを総合的に考慮し、状況に応じた最適な選択肢を選ぶことが大切です。
塗装は短期間で手軽に実施できる一方で、効果は一時的です。逆に、リフォーム修理は初期費用が高いものの、長期的には屋根の寿命を大幅に延ばし、トータルコストを抑える可能性があります。
屋根は家屋を守る重要な部分であり、その状態を適切に維持することが、家全体の耐久性を高めることにつながります。定期的なメンテナンスと適切な修理を行うことで、家の寿命を延ばし、快適な住まいの環境を保つことができるのです。
最終的にどちらを選ぶべきか迷った場合は(迷っていなくても)、プロ(「塗装業者」と「屋根職人」それぞれ)に相談することをお勧めします。
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