はじめに
築15〜25年ほどのスレート屋根(コロニアル・カラーベスト)で、「塗り替えようとしたら、業者から“この屋根は塗装できません”と言われた」というご相談が増えています。実は、2000年代前半に使われた一部のスレート屋根材には、塗装をしても長持ちしない、あるいは塗装そのものができないものがあります。その原因は、屋根材の「ノンアスベスト(無石綿)化」への移行期に起きた強度不足にあります。
私たちは創業70年、板金職人 親子三代で屋根や雨漏りの修理に携わってきました。その現場経験から、要注意なスレート屋根材の見分け方、なぜ塗装が効かないのか、そして正しいメンテナンス方法をわかりやすく解説します。なお、これはアスベストを“含む”屋根材の危険性とは別の問題です。混同しやすいので、まずそこから整理します。

なぜ「ノンアスベスト初期」のスレートは要注意なのか
アスベスト規制と屋根材の切り替え
かつてのスレート屋根材には、補強材としてアスベスト(石綿)が混ぜられていました。アスベストは健康被害が問題となり、法律で段階的に規制されます。具体的には、2004年に石綿含有率が1%を超えるスレート屋根材・壁材などの建材の製造が禁止され、2006年には含有率0.1%を超える製品の製造・使用が原則として全面的に禁止されました。
この規制を受けて、各メーカーはアスベストを使わない「ノンアスベスト」屋根材へ一斉に切り替えました。アスベストを正しく管理して使う分には屋根材として高い強度がありましたが、健康面のリスクから使えなくなった——ここまでは「アスベストを含む屋根材」の話です。問題は、その“次”に起きました。
移行期(おおむね2000〜2008年頃)に強度不足の製品が生まれた
アスベストは、屋根材の「強度」や「粘り」を支える重要な役割を担っていました。ところが規制によって短期間で代替材料へ切り替える必要があり、移行期の初期製品の中には、強度が十分でなく、割れ・欠け・反り・「層状剥離(そうじょうはくり)」が起きやすいものがありました。おおむね2000〜2008年頃に製造・施工されたノンアスベスト初期のスレートは、注意が必要だと考えてください。なお、2008年以降に各メーカーが改良した製品は品質が安定しており、現在のスレートは問題なく使われています。

「層状剥離」はなぜ起きるのか
スレート屋根材は、セメントと繊維を薄く積み重ねてつくられています。アスベストが入っていた頃はこの層どうしがしっかり結びついていましたが、強度の不足した初期ノンアスベスト品では、層と層のあいだに雨水がしみ込みやすくなります。しみ込んだ水が、晴れと雨のくり返しや冬場の凍結・融解によって膨張・収縮すると、層が少しずつ浮いて剥がれていきます。これが、ミルフィーユのように先端からめくれる「層状剥離(層間剥離)」です。表面だけの傷みではなく屋根材の内部から進む劣化のため、上から塗装で覆っても進行を止めることはできません。
「アスベストを含む屋根材」との違い
混同されがちですが、両者は別の問題です。アスベストを“含む”屋根材(おおむね2004年より前)は、屋根材としての強度は高い一方で、解体・撤去のときに石綿の飛散対策が必要になります。一方、ここで取り上げている“ノンアスベスト初期”の屋根材は、石綿は含まないため撤去時の石綿リスクは低いものの、屋根材そのものがもろく割れやすいのが問題です。つまり「古いほど危険」という単純な話ではなく、年代によってリスクの種類が違うということです。アスベストを含む屋根材については、別の記事で詳しく解説しています。
代表的な「要注意スレート」
以下は代表例です。同じ製品でも製造ロットや環境によって状態は異なり、正確な判断には専門業者の現地調査が必要です。あくまで「こうした屋根材がある」という知識としてお読みください。
ニチハ「パミール」
1996年から2008年頃まで販売された化粧スレートです。屋根材の層がミルフィーユのように剥がれる「層間剥離」が起きやすいことで広く知られ、早いものでは施工後7〜10年程度で先端からボロボロと剥離が始まる例も報告されています。塗装をしても素地から剥がれてしまうため、塗装によるメンテナンスができません(塗装前の高圧洗浄でさらに傷むこともあります)。さらに、固定に使われた釘の一部に錆びやすいものがあるとされ、屋根材だけでなく固定の面でも問題を抱えています。

クボタ(現ケイミュー)「グリシェイドNEO」「アーバニー」など
2001年前後に発売されたノンアスベストのスレートにも、強度不足で割れ・欠けが起きやすいものがあります。たとえば「グリシェイドNEO」は耐久年数が10〜15年程度とされ、塗装に向かないと説明されています。また「アーバニー」のようにスリット(切り込み)が多い複雑な形状の製品は、その分だけ強度が低く、踏んだだけで割れてしまうこともあります。いずれも塗装での延命は難しい屋根材です。

要注意スレートの「見分け方」
ご自身で確認できる範囲のチェックポイントをまとめます。あくまで目安で、確定診断は専門業者にお任せください。屋根に登るのは危険ですので、地上から双眼鏡で見る、点検時に写真を撮ってもらうなど、安全な方法で確認しましょう。
- 築年数が、おおむね2001〜2008年頃に新築・屋根リフォームをしている
- 小口(こぐち=屋根材の先端)が、薄い層になって剥がれている(層状剥離)
- 屋根材の先端が欠けている、ひびが多い、欠片が雨樋や地面に落ちている
- 表面の塗膜の状態に関わらず、屋根材“本体”がもろくなっている

実際に劣化したスレートでは、下の写真のように先端が割れ・欠けを起こします。こうした症状が屋根全体に広がっている場合は、要注意スレートの可能性があります。

なぜ塗装では直せないのか
通常のスレート屋根は、表面の塗膜が劣化しても屋根材“本体”が健全であれば、塗り替えで保護でき、寿命を延ばせます。しかし要注意スレートは、屋根材そのものの素地が弱っているのが問題です。塗装は表面を保護するだけで、内部から進む層状剥離や割れを止めることはできません。それどころか、塗装前に行う高圧洗浄の水圧で表面が剥がれたり、職人が屋根に上がること自体で割れてしまったりすることもあります。「塗ってもすぐ剥がれる」「そもそも塗れない」と言われるのは、このためです。
逆に言えば、これらの屋根材に「塗装で大丈夫です」とだけ提案してくる業者には注意が必要です。屋根材の種類と状態を正しく見極めてくれるかどうかは、信頼できる業者を見分けるポイントになります。
正しいメンテナンスは「カバー工法」か「葺き替え」
要注意スレートのメンテナンスは、大きく分けて2つの方法があります。
カバー工法
既存のスレートの上に、軽量なガルバリウム鋼板などの金属屋根を重ねる方法です。屋根材を撤去しないため廃材処分費がかからず、工期も短く、費用を抑えやすいのが利点です。アスベストを含む屋根材の場合でも、撤去せずに覆うため石綿の飛散を抑えられるという利点もあります。ただし、下地(野地板)や固定がしっかりしていることが前提で、屋根の重量は多少増えます。
葺き替え
既存の屋根材を撤去し、下地から新しくつくり直す方法です。費用と工期はかかりますが、傷んだ下地ごと一新でき、軽い屋根材に替えて建物の耐震性を高めることもできます。なお、パミールのように釘や下地に問題を抱える屋根材は、上から固定するカバー工法が難しく、葺き替えがすすめられるケースが多くあります。判断に迷ったら「スレート屋根のメンテナンスはどうする?屋根塗装か金属屋根カバー工法か」や「屋根葺き替えとは?メリット・時期・費用をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
費用の目安としては、一般的にカバー工法より葺き替えのほうが高くなる傾向があります。ただし、すでに雨漏りが起きていて下地(野地板やルーフィング)まで傷んでいる場合は、下地から直せる葺き替えが確実です。屋根材の種類・劣化の程度・ご予算によって最適な方法は変わりますので、一社の提案だけで決めず、屋根材の種類まで確認したうえで複数の選択肢を示してくれる業者に相談すると安心です。


まとめ
2000〜2008年頃のノンアスベスト初期のスレート屋根材には、層状剥離やひび割れが起きやすく、塗装では直せないものがあります。築15〜25年ほどのスレート屋根で「先端が層状に剥がれている」「割れや欠けが多い」といったサインが見られたら、塗装ではなくカバー工法や葺き替えを検討するタイミングかもしれません。
大切なのは、屋根材に合った方法を選ぶこと、そしてまずは正確な診断を受けることです。屋根材の年代や種類は見ただけでは判断が難しいため、自己判断や一社だけの提案で決めず、屋根材の種類まで確認してくれる専門家に相談しましょう。ご自宅の屋根が心配な方は「自宅の屋根を点検する方法とは?」や「スレート屋根(コロニアル)の寿命と改修時期」もあわせてご覧ください。屋根と板金の専門家として、最適な方法をご提案します。



