屋根の凍害(凍て割れ)とは?瓦やスレートが冬に割れる原因・症状・対処法を職人が解説

こんにちは。奈良県で創業70年、親子三代で屋根工事を手がける板金職人の「屋根修理の匠ひおき」です。

はじめに

春先に屋根を見上げたら「瓦の表面がパリパリと剥がれている」「庭に瓦のかけらが落ちていた」——そんなご相談が、冬の寒さが厳しかった年には必ずといってよいほど寄せられます。原因の多くは凍害(とうがい)。地域によっては「凍て割れ(いてわれ)」「凍み割れ(しみわれ)」とも呼ばれる、屋根材が凍結によって壊れていく現象です。

「凍害は北海道や東北など寒冷地だけの話」と思われがちですが、実は本州の内陸部など、冬の朝晩に氷点下まで冷え込む地域なら どこでも起こり得ます。この記事では、凍害が起こる仕組み、起こりやすい屋根材と場所、症状のサイン、修理と予防の方法まで、屋根職人の視点でわかりやすく解説します。

凍害(凍て割れ・凍み割れ)とは?

水分の「凍結膨張」が屋根材を内側から壊す

凍害とは、屋根材に染み込んだ水分が凍結と融解(凍っては溶ける)を繰り返すことで、屋根材の表面や内部が壊れていく現象です。水は氷になるときに体積がおよそ9%膨張します(一般的な目安)。屋根材の細かな隙間に入り込んだ水分が凍って膨らみ、日中に溶けてまた染み込み、夜にまた凍る——この繰り返しが少しずつ屋根材の組織を押し広げ、やがてひび割れや表面の剥離(はくり)となって現れます。

凍害(凍て割れ)が起こる仕組みの解説図。屋根材が吸水し、水分が凍結して約9%膨張し、凍結融解の繰り返しでひび割れ・剥離に至る3段階を図解
凍害は「吸水→凍結・膨張→ひび割れ・剥離」の繰り返しで進行します

一度の凍結で受けるダメージはごくわずかですが、ひと冬に何十回も凍結融解が繰り返されると、数年〜数十年の間に確実に屋根材を傷めていきます。実際、瓦の国家規格であるJIS A 5208(粘土がわら)にも、水を吸わせた瓦をマイナス20℃前後の冷気と15〜25℃の水に交互にさらしてひび割れや剥離が出ないかを確かめる「凍害試験」が定められているほど、瓦にとって凍結は古くから警戒されてきた劣化要因なのです。

寒冷地だけの問題ではありません

凍害というと豪雪地帯のイメージがありますが、ポイントは「屋根材が水分を含んだ状態で氷点下になるかどうか」です。内陸部や盆地では放射冷却で冬の明け方に氷点下まで下がる日が珍しくなく、前日の雨や霜・露で湿った屋根がそのまま凍ることがあります。積雪が少ない地域でも、条件がそろえば凍害は起こり得ると考えておきましょう。

凍害にあった瓦は注意が必要です

凍害が起こりやすい屋根材と場所

屋根材ごとの凍害リスク

凍害のリスクは「どれだけ水を吸いやすいか」でほぼ決まります。屋根材ごとの傾向を表にまとめました。

屋根材凍害リスク理由・特徴
粘土瓦(高温焼成の陶器瓦)低い吸水率が低く凍害に強い。JIS A 5208では釉薬瓦の吸水率12%以下などが規定され、石州瓦のように約1,200℃の高温で焼かれた瓦は特に低吸水
粘土瓦(古い瓦・焼きの甘い瓦)中〜高い昔の窯で焼成温度が低い瓦や個体差のある瓦は吸水しやすく、表面剥離が起こりやすい
セメント瓦・モニエル瓦塗膜劣化で高まる素材自体が吸水しやすく、表面の塗膜やスラリー層が切れると一気に水を吸うようになる
スレート(コロニアル)塗膜劣化で高まる薄いセメント系素材のため、塗膜が劣化して吸水が始まると凍結でひび割れ・反りが進む
金属屋根(ガルバリウム鋼板・SGL)ほぼなし金属は水を吸わないため凍害そのものが起こらない
屋根材別の凍害リスクの目安(劣化状況・製品により異なります)
表面の塗膜・スラリー層が劣化して素地が露出したセメント系の瓦屋根の近接写真
表面の保護層が劣化したセメント系の瓦。この状態は雨水を吸い込みやすく、凍害が進みやすい典型例です

同じ屋根でも「北面・日陰・水が溜まる場所」から傷む

凍害は屋根全体に均等に出るわけではありません。日当たりが悪く水分が乾きにくい北面、隣家や樹木の陰になる面、雨水が集中する谷まわりや軒先、そして苔が生えて水を溜め込んでいる場所——こうした「濡れた状態が長く続く場所」から先に進行します。点検の際も、まず北側から確認するのが職人の定石です。

凍害が起こりやすい場所の解説図。日陰で乾きにくい北面、雨水が集まる谷・軒先、苔や汚れが多い面がリスクが高いことを家のイラストで図解
凍害は「濡れたまま乾きにくい場所」から進行します

凍害のサインと放置するリスク

こんな症状が出たら凍害を疑いましょう

凍害のサインとして代表的なのは次のような症状です。①瓦やスレートの表面が薄い層になってパリパリ剥がれる(層状剥離)、②表面がざらざらと粉をふいたように崩れる、③小口(瓦の端)から欠けてくる、④庭や雨どいの中に屋根材のかけらが落ちている、⑤冬を越すたびにひび割れの本数が増える——特に「表面が層になって剥がれる」のは凍害に特徴的な壊れ方で、飛来物による単純な割れとは見分けがつきます。

ひび割れが入り一部が欠けたスレート屋根材の近接写真
割れ・欠けが出たスレート。吸水と凍結の繰り返しはこうした割れの引き金になります

放置すると雨漏り・下地の腐食につながります

「表面が剥がれているだけだから」と放置するのはおすすめできません。剥離した面はさらに水を吸いやすくなるため凍害は加速度的に進み、割れた隙間から雨水が入れば、瓦の下の防水紙(ルーフィング)や野地板を傷めて雨漏りに発展します。また、剥がれたかけらが強風時に落下すれば、雨どいの詰まりやカーポート・通行人への被害にもつながりかねません。凍害は「進行性の劣化」であることを覚えておいてください。

凍害の対処法(修理方法)

症状が数枚だけなら「部分差し替え」

凍害が数枚にとどまり、下地まで傷んでいなければ、該当する瓦・屋根材だけを新しいものに差し替える部分補修で対応できます。ただし注意したいのは、1枚に凍害が出た屋根は、他の瓦でも同じ劣化が進んでいることが多いという点です。同じ製品・同じ環境で葺かれている以上、翌冬にまた別の瓦が剥がれるということは珍しくありません。差し替えの際は屋根全体の状態も併せて点検してもらいましょう。

スレート・セメント瓦は「塗装」で吸水を抑えて予防

スレートやセメント瓦・モニエル瓦は、表面の塗膜が生きているうちは水をほとんど吸いません。つまり、塗膜が切れる前に塗装メンテナンスを行うことが最大の凍害予防になります。すでに軽い剥離が始まっている場合も、補修のうえ塗装で吸水を抑えれば進行を遅らせることが期待できます。一方、粘土瓦(陶器瓦・いぶし瓦)はもともと塗装を前提としない屋根材のため、塗装による凍害対策は基本的に行いません。

広範囲なら「葺き替え・カバー工法」で凍害に強い屋根へ

凍害が屋根全体に広がっている場合や、下地まで傷んで雨漏りが出ている場合は、部分補修を繰り返すより葺き替え(またはスレートならカバー工法)が結果的に経済的です。葺き替え先としては、水を吸わないため凍害の心配がないガルバリウム鋼板・SGLなどの金属屋根、あるいは高温焼成で吸水率の低い陶器瓦(石州瓦など)が代表的な選択肢です。当社は板金職人の会社ですので言い添えると、金属屋根は軽量で耐震性にも有利なため、凍害を機にリフォームされる方には特に人気があります。

凍害の症状範囲と対処の目安のフローチャート。数枚だけなら部分差し替え、スレート・セメント瓦の表面劣化なら補修と塗装、広範囲や下地の傷みがあれば葺き替え・カバー工法を検討
症状の範囲によって対処法の目安が変わります(実際は点検のうえで判断します)

凍害を防ぐためにできること

凍害の予防は「屋根を濡れたままにしない」ことに尽きます。具体的には次の4点を心がけてください。

  • 苔・汚れを溜めない:苔はスポンジのように水を保持し、凍害を加速させます。生え始めたら早めに対処を。
  • 雨どい・谷の詰まりを解消する:水はけが悪い場所は乾きにくく、凍結の温床になります。
  • スレート・セメント瓦は塗膜が切れる前に塗装する:色あせやチョーキングは吸水が始まるサインです。
  • 寒波の翌春に点検する:凍害は冬に進み、春に症状が現れます。厳冬の後は北面を中心にチェックを。

また、これから瓦を選ぶ・葺き替えるという方は、吸水率の低い高温焼成の陶器瓦や金属屋根など「そもそも凍害が起こりにくい屋根材」を選ぶことが、最も確実な予防策になります。

まとめ

凍害(凍て割れ・凍み割れ)は、屋根材に染み込んだ水分が凍結・膨張を繰り返すことで、ひび割れや表面の剥離を引き起こす現象です。寒冷地に限らず、冬に氷点下まで冷え込む地域なら起こり得ます。水を吸いやすい古い瓦やセメント瓦、塗膜の切れたスレートは要注意で、症状は北面や日陰、水はけの悪い場所から現れます。

対処は範囲に応じて、部分差し替え・塗装による保護・葺き替えが目安です。凍害は放置すれば必ず進行し、雨漏りや下地の腐食につながります。「瓦の表面が剥がれている」「庭にかけらが落ちていた」といった小さなサインに気づいたら、早めに屋根の専門業者へ点検を相談してください。当社でも、屋根の状態に合わせた無理のない補修方法をご提案しています。

【参考資料】
・JIS A 5208:1996 粘土がわら(吸水率・凍害試験の規定)
・石州瓦工業組合「石州瓦の品質・耐久性」

日置 卓弥

屋根修理の匠ひおきの代表です。哲学で学んだ独特な視点を屋根修理の仕事に活かし、お客様の期待を超えるサービスを実現するために日々努力しています。

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