はじめに
「うちの屋根、もしかしてアスベストが入っているのでは?」――スレート屋根(コロニアル・カラーベスト)の塗装や葺き替えを考えはじめたお客様から、よくいただくご質問です。かつての屋根材には、補強材としてアスベスト(石綿)が混ぜられていたものが多く、築年数の古いお住まいでは決して珍しくありません。
アスベスト自体は、固められて屋根材の中に入っている状態であれば、ただちに健康被害が生じるものではありません。問題になるのは、割れたり、削れたり、解体・撤去したりして繊維が空気中に飛び散る「飛散」のときです。だからこそ、2022年から2023年にかけて、解体・改修工事に関する法律やルールが大きく強化されました。
この記事では、創業70年・親子三代の板金職人の視点から、アスベストが使われていた屋根材の種類と年代の目安、ご自宅の屋根が含有しているかどうかを見分ける方法、そして撤去(葺き替え)とカバー工法という2つの改修方法の違いや費用の考え方まで、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。地域を問わず参考にしていただける内容です。

なぜ屋根材にアスベスト(石綿)が使われてきたのか
そもそもアスベストとは
アスベスト(石綿)は、天然にできた繊維状の鉱物です。非常に細い繊維でありながら、熱や摩擦に強く、薬品にも侵されにくく、しかも安価という、建材としては「夢のような」性質を備えていました。そのため、かつては屋根材・外壁材・断熱材・吹付け材など、さまざまな建築資材に幅広く使われてきました。
一方で、目に見えないほど細い繊維を吸い込み続けると、十数年から数十年という長い潜伏期間を経て、肺の重い病気を引き起こすことがわかってきました。この健康被害が社会問題となり、後述するように段階的に使用が規制され、最終的には全面的に禁止されています。
スレート(コロニアル・カラーベスト)に混ぜられていた
戸建て住宅でアスベストと関わりが深いのが、薄い板状の「化粧スレート」です。コロニアルやカラーベストといった商品名で広く普及した屋根材で、セメントを主成分に板状へ成形してつくられています。
セメントだけでは硬くてもろく、薄く成形すると割れやすいという弱点があります。そこで、繊維状で引っ張りに強いアスベストを混ぜ込むことで、薄くても割れにくく、耐久性と防火性に優れた屋根材を実現していました。屋根材としては優秀だったからこそ、全国の住宅に大量に使われ、その多くが今も現役で使われ続けているのです。スレート屋根そのものの寿命や改修時期については、別記事「スレート屋根(コロニアル)の寿命と改修時期」もあわせてご覧ください。

アスベストを含む屋根材は「いつまで」使われた?年代の目安
ご自宅の屋根が心配なとき、まず手がかりになるのが「建てられた(葺かれた)年代」です。法律による規制の流れを知っておくと、おおよその見当をつけられます。
2004年に住宅用化粧スレートが製造禁止
アスベストの規制は一度に行われたわけではなく、危険性の高いものから段階的に進められました。住宅の屋根に関わる大きな節目が2004年(平成16年)です。この年、アスベストを重量の1%を超えて含む建材のうち、住宅屋根用化粧スレートや窯業系サイディングなど10品目の製造・輸入・使用が禁止されました(厚生労働省 石綿規制の経緯)。
このため、戸建て住宅用の化粧スレートは、おおむね2004年ごろを境にアスベストを含まない製品へと切り替わっていきました。逆にいえば、2004年(平成16年)よりも前に施工されたスレート屋根は、アスベストを含んでいる可能性があると考えておくのが安全です。
2006年・その後の全面禁止へ
さらに2006年(平成18年)には、規制の基準が「1%超」から「0.1%超」へと大幅に引き下げられ、これを超えてアスベストを含むほぼすべての製品の製造・輸入・使用が原則として禁止されました。その後、ごく一部に残っていた例外的な用途も解消され、現在は全面的に禁止されています。新築・改修ともに、近年の工事で新たにアスベスト含有の屋根材が使われることはありません。
2004年以降の「初期ノンアスベスト製品」にも別の注意
ここで職人として一点補足しておきたいことがあります。アスベストを含まない「ノンアスベスト」のスレートに切り替わった初期(おおむね2001〜2008年ごろ)の製品の一部には、強度を十分に確保できず、施工から10年前後でひび割れや表面の剥離が早く進んでしまったものがあったといわれています。
つまり、2004年以降に葺かれた屋根は「アスベストの心配は小さい」一方で、製品によっては「別の理由で傷みが早い」ことがあるということです。年代だけで安心しきらず、屋根材そのものの状態を点検でしっかり確認することが大切です。
自宅の屋根がアスベスト含有かを見分ける3つの方法
①築年数・施工年から推定する
もっとも手軽なのが、前章の年代の目安と照らし合わせる方法です。新築やリフォームの記録、契約書、確認申請の書類などから、屋根を葺いた時期を確認しましょう。2004年より前であれば含有の可能性を念頭に置き、2004年以降であれば可能性は下がる、という大まかな判断ができます。ただしこれはあくまで推定であり、これだけで「含有なし」と断定はできません。
②製品名・メーカーの刻印を調べる
スレート屋根材の裏面や端部には、メーカー名・製品名・製造時期などが刻印・印字されていることがあります。これらの情報がわかれば、国土交通省・経済産業省が公開している「アスベスト(石綿)含有建材データベース」で、その製品がアスベストを含んでいたかどうかを調べることができます。製品名と製造時期から含有の有無を確認できる、信頼性の高い公的なツールです。
③確実に知るには「分析調査」
書類も刻印もはっきりしない、あるいは確実に判断したいという場合は、屋根材の一部を採取して専門機関で分析する「分析調査」が確実です。後述するとおり、解体・改修工事の前にはこうした事前の調査が法律で義務づけられており、必要に応じて分析が行われます。
なお、屋根の上は急勾配で滑りやすく、踏み割れによってかえってアスベストを飛散させたり、転落事故につながったりする危険があります。見分けのためにご自身で屋根に上るのは避け、専門業者の点検にお任せください。

解体・改修で義務になった「事前調査」と最新の法規制
アスベストは、屋根材の中に固められている間はリスクが小さい一方、解体や撤去で「壊す」ときに飛散の危険が高まります。そのため、工事の場面では法律によるルールが近年大きく強化されました。リフォームを検討する際は、施工側だけでなく、依頼するお客様側にも知っておいていただきたいポイントです。
工事前の「事前調査」は規模を問わず義務
建築物の解体・改修工事を行う際は、その建物にアスベスト含有建材が使われていないかを、工事の前に調べる「事前調査」が法律(大気汚染防止法・石綿障害予防規則)で義務づけられています。これは工事の大小にかかわらず必要なもので、個人宅の小さなリフォームも対象です。
一定規模以上は「結果の報告」も義務に(2022年4月〜)
2022年(令和4年)4月1日からは、一定規模以上の工事について、事前調査の結果を行政(都道府県等)と労働基準監督署へ報告することが義務化されました(環境省・厚生労働省)。報告の対象となるのは、おもに次のような工事です。
- 建築物の解体工事で、解体する部分の床面積の合計が80㎡以上のもの
- 建築物の改修工事で、請負代金の合計額が100万円以上(税込)のもの
- 工作物の解体・改修工事で、請負代金の合計額が100万円以上(税込)のもの
報告は専用の電子システムを通じて行われます。きちんと事前調査と報告を行うのは、適正に工事を進める業者の基本姿勢といえます。
調査は「有資格者」が行う(2023年10月〜)
さらに2023年(令和5年)10月1日からは、この事前調査を「建築物石綿含有建材調査者」などの資格を持つ人が行うことが義務づけられました(厚生労働省)。だれでも目視で済ませてよいわけではなく、専門の知識を持つ調査者が適切に調べる体制が求められるようになっています。アスベストへの対応がきちんとしているかどうかは、業者を選ぶうえでの一つの目安にもなります。
アスベスト屋根材は「レベル3」
アスベスト含有建材は、繊維の飛散しやすさ(発じん性)に応じて、危険度の高い順にレベル1・2・3に分類されます。吹付けアスベストなど最も飛散しやすいものがレベル1、保温材・断熱材などがレベル2、そしてセメントで固めて成形されたスレートなどの屋根材・外壁材は、飛散性が比較的低いレベル3(成形板)に分類されます(厚生労働省・環境省の分類)。

ただし「レベル3だから安全」という意味ではありません。割ったり、高圧洗浄で削ったり、切断したりすれば、固められていた繊維が飛び散ります。レベル3でも、湿らせて飛散を抑えながら、できるだけ割らずに手作業で外すなど、適切な作業と保護具の使用が求められます。
アスベスト屋根の改修──「カバー工法」か「葺き替え(撤去)」か
では、アスベストを含む古いスレート屋根は、実際どのように改修するのでしょうか。大きく分けて「カバー工法」と「葺き替え(撤去)」の2つの方法があり、それぞれにアスベストとの向き合い方が異なります。

カバー工法(重ね葺き):飛散させずに封じ込める
カバー工法は、既存のスレート屋根を撤去せず、その上から軽量なガルバリウム鋼板などの金属屋根を重ねて葺く方法です。既存の屋根材を壊さないため、アスベストを飛散させるリスクが小さく、撤去や廃棄にかかる費用・手間を抑えられるのが大きな利点です。工期も比較的短く、廃材も少なくて済みます。アスベストを含むスレート屋根の改修で金属カバー工法が選ばれることが多いのは、こうした理由からです(詳しくは「ガルバリウム鋼板屋根で人気の屋根カバー工法とは?」もご覧ください)。

ただし、屋根が二重になるぶん重量が増えるため、建物の状態や耐震性を踏まえた判断が必要です。また、下地(野地板)の傷みや雨漏りが進んでいる場合や、屋根材の劣化が激しい場合にはカバー工法が向かないこともあります。棟板金など一部の部材は撤去をともなう点にも注意が必要です。
葺き替え(撤去):飛散防止と適正処分が必要
葺き替えは、既存のスレート屋根を撤去し、下地から新しくつくり直す方法です。下地の状態まで含めてリセットできるため、傷みが進んだ屋根には適しています。
一方で、アスベストを含む屋根材を撤去する以上、飛散を防ぐ作業が欠かせません。屋根材を十分に湿らせ、できるだけ割らずに手作業で取り外し、作業者は保護具を着用します。取り外したアスベスト含有のスレートは「石綿含有産業廃棄物」として、一般の廃材とは分けて適正に処分する必要があります。こうした飛散防止措置と処分の手間が、後述する費用にも影響します。
費用の考え方
費用は屋根の面積・形状・劣化状態・足場の要否などで大きく変わるため、ここでは一般的な目安としての考え方をお伝えします。撤去と専用の処分が必要になるぶん、葺き替え(撤去)はカバー工法よりも費用が高くなりやすい傾向があります。逆に、既存屋根を残せるカバー工法は、撤去・処分費を抑えられる点でコスト面の利点があります。
ただし、安さだけで決めるのは禁物です。下地が傷んでいるのに無理にカバー工法を選べば、かえって早期の不具合につながります。建物の状態に合った方法を、正確な現地調査のうえで選ぶことが、結果的にもっとも費用対効果の高い選択になります。なお、条件によっては補助金・助成金を利用できる場合もあるため、「屋根リフォームで使える補助金・助成金」の記事もあわせてご確認ください。
どちらを選ぶべきか(職人視点)
職人の視点でまとめると、屋根の下地がまだ健全で、飛散リスクと費用を抑えたいならカバー工法、下地の傷みや雨漏りが進んでいる、あるいは将来も含めてしっかりつくり直したいなら葺き替え、というのが基本的な考え方です。どちらが適しているかは、屋根材の種類・劣化具合・建物の構造によって変わります。アスベストの有無の確認も含め、まずは信頼できる専門業者にきちんと点検してもらうことが第一歩です。
まとめ
アスベスト(石綿)を含む屋根材は、2004年(平成16年)より前に施工されたスレート屋根を中心に、今も多くのお住まいで使われています。固められた状態であればただちに危険というわけではなく、過度に怖がる必要はありません。大切なのは、「割る・削る・解体する」ときの飛散を防ぐことです。
ご自宅が心配なときは、まず築年数で見当をつけ、製品の刻印やアスベスト含有建材データベース、必要に応じて分析調査で確認します。屋根に上っての自己点検は危険なので避け、専門業者にお任せください。解体・改修の際は、事前調査(規模を問わず義務)、一定規模以上の報告義務(2022年〜)、有資格者による調査(2023年〜)といったルールにのっとって進めることが求められます。
改修方法は、飛散を抑えつつ費用も抑えやすい「カバー工法」と、下地から刷新できる「葺き替え(撤去)」の2つが基本です。どちらが適しているかは屋根と建物の状態しだいです。アスベストの不安も含め、まずは正確な点検から始めましょう。屋根修理の匠ひおきでは、親子三代の板金職人が、現地の状態を丁寧に確認したうえで、最適な改修方法をご提案します。



